執事の私生活と賃金

サイクリング
↑19世紀末から20世紀初めにサイクリングが流行。当時、自転車は高価な乗り物でした。

ビートン夫人の家政読本1906年版より抜粋 男性使用人の年俸
・家令……60-100ポンド
・従者……100ポンド
・執事……55-90ポンド
・従僕……18-40ポンド
・第二従僕……18-34ポンド
・御者……40-70ポンド
・小姓……18-25ポンド
・狩猟番(森番)……100-150ポンド

 金額的にはあまり多くありませんが、食と住を賄えるのを考えれば当時としては高給取りでした。およそ現在円で換算すると、1905年当時の1ポンドは1~1.5万円ほどの価値があります。

上級使用人である執事に与えられた個室は快適でした。暖炉があり、寝所と居間があります。同僚たちと相部屋(暖炉無)をする下級使用人より、明らかに恵まれた待遇でした。

上級使用人の個室 Servants' Quarters
↑ある料理人の宿舎の個室。執事たちもこのような個室を与えられたはず。

 使用人の場合、余暇はほとんどといっていいほどありませんでした。月に一度、半日休暇があればいいほうです。ただメイドたちとはちがって、夜も空き時間は自由に外出もできました。大きなお屋敷だと、人数も多いから交代で休暇を取ることもできました。

 そのぶん、待機時間が長かったこともあって、室内での時間つぶしを趣味に費やす執事もたくさんいました。絵画や読書、編み物などです。なかにはトランプで同僚と賭け事をする者も。

 そしてペットを飼っている執事もいました。猫や犬はよくあるとして、鼠やオウムまで! オウムは下男が飼っていたのですが、シェフの悪態を覚えてしまい、下品だということでその下男はは解雇されました(笑)

 ほかにはクリスマスのあとのボクシングデーでのパーティやダンス、合唱、サイクリング、散歩、執事たちが集うクラブで同業者と酒を飲みながらおしゃべりもあります。そのとき、評判の悪い主人は噂――ブラックリストに加えられ、雇用主が仕事を募っても、使用人たちが寄り付かなくなることもありました。

THE GREAT CONTEST. BLACK AND WHITE AT THE NATIONAL SPORTING CLUB, MONDAY, MAY 30, 1892.
↑当時の娯楽の一つ、ボクシング観戦。

使用人集合写真
↑20世紀初頭の使用人集合写真。残念ながらだれが執事かは不明。