執事の恋愛と結婚

1920年代の結婚式
↑1920年代の婚礼写真。

 執事としての大きな悩み(?)のひとつに結婚があります。なぜなら、いつ何があっても、主人のもとへ駆けつけられるように待機する必要があり、世帯を持つと住み込みで働けないからです。だから既婚者執事は、雇い主から敬遠されました。
 仕方なく、あるいはポリシーを持って、執事たちは独身を貫くのです。

 従僕のウィリアム・テイラーは日記を一年ほど書いており、そのなかには妻という単語は出て来ません。恋人すらも。しかし、ときおりふらっと屋敷を抜けだしては、明け方帰ることもあり、後年、日記を研究した編者が「世帯を持っていたのではないか」と推測しています。それだけ、雇い主に知られるのを恐れていたことにもなります。

 一般的にハンサムな従僕は女遊びをよくするため、メイドたちから好かれません。なかには軽い火遊びのつもりが、妊娠させてしまって無理やり結婚させられた者もいます。従僕は不運でも、メイドにしてみれば幸運。たいていのメイドは捨てられ、泣く泣く解雇されて実家にもどるのですから。いくら手を出したほうが悪くても、男性優位の社会では少女たちは泣き寝入りするしかありませんでした。
 出世に響くため、恋人を捨てて結婚しない従僕もたくさんいたのです。

 とくにひどくなると、執事としての権限をふるって、メイドたちと片っ端から関係を持つ者もいました。主人が顔を出すことのない食料貯蔵庫や洗濯室が秘密の場所です。恋愛か無理やりだったのかは定かではありませんが、主人に発覚しても執事だけは解雇されませんでした。泣きを見るのは、妊娠し、解雇させられたメイドたちです。

November 30, 1901
↑1901年の一家と使用人の集合写真

 別のエピソードでは、ふたりきりになった隙に、抱きつかれたり、キスされたと少女時代を語るメイドもいました。
 さらに悪質になると、関係を拒まれた腹いせに、窓のない銀器保管庫へメイドを閉じこめた執事も。換気のない部屋で酸素が途切れる少し前、察知した同僚によって救われたそうです。

 お屋敷に初めて奉公する少女へ、大人たちが「執事と若様には充分注意しなさい」と、諭されるのも納得のエピソードばかりです。当時、それだけセクハラ執事や従僕が多かったということですね……。

 執事まで出世すると、雇い主もいくらか自由を認め、世帯を持つことを許されました。女料理人や家政婦と世帯を持ちながら、同じ屋敷で奉公するのです。ただ、夫婦になるとふたりで一組の使用人として扱われるため、給金も減ってしまいます。
 どちらにしても、世帯を持つことは執事にとって悩みの種になります。

 使用人奉公を辞めるという選択もあります。
 メイドと夫婦になったのを機に、貯めたお金でパブや宿屋を経営する者もたくさんいました。当時、引退した執事や従僕たちがパブを開業するのは普通でした。

 女遊びをするセクハラ執事はともかく、真面目な執事が愛する女性と、正々堂々と結婚するには、たくさんの難関がありました。

servants
↑使用人集合写真。時代は不明ですが、服装から察するに1860年代ごろでしょうか?


↓執事の淡い恋が描かれた名作。
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