執事の誘惑(あるいは悪徳)

酒場の給仕

 サブカルチャーとして知られる執事は、主人に忠実で私生活も厳格、といったイメージがありますが、執事も人の子。なかには誘惑に負けて、破滅する者もいました。

 一番多かったのが、アルコール中毒です。
 ワインセラーの管理を任されているのですから、当然のようにいつでもこっそり飲酒できます。主人や上客にお出しする高級ワインもあります。誘惑に負けないほうがめずらしいかもしれません。

 こっそりで住む程度ならいいのですが、飲み過ぎがたたって仕事に支障が出るようになると、解雇が待っています。当時、執事の飲酒は社会問題になっており、赤ら顔で太鼓腹の中年男として、大衆紙に描かれていることからもうかがえます。
 悲しいことに過酷な労働がたたって、ストレスを解消するためにアルコール中毒に陥った執事もいました。一概に、執事が悪いというわけではなさそうです。

 競馬などのギャンブルにハマる者もいました。借金をしてしまい、負けた分を取りもどすため、銀器を質屋に入れて再挑戦。当然、めったに勝てるはずもなく、銀器が無くなったことが主人に発覚してしまいます。

 あと常に紳士につかえているため、自分も主人のような振る舞いをしたい見栄に駆られた挙句、衣服や小物を盗んでしまう執事や従僕も多かったそうです。なかには主人になりすまし、銀行で預金を引き下ろした者もいました。

 お仕着せを売る者もいました。ある御者は年に2着支給されるうち、1着を新品同様、仕立屋に返品。それを翌年のお仕着せとして仕立屋が主人へ売りつけました。代わりに御者は自分の普段着を得るのです。
 が、怪しんだ主人が事実を仕立屋から聞き出して、悪事が発覚しました。御者も悪いけど、平気に加担する仕立屋もかなりの腹黒です。

 それらは解雇ではすまず、警察沙汰になって逮捕されます。裁判の判決が下って監獄行きになってしまうと、執事としての人生は歩めなくなりました。
 しかし強者になると、紹介状を偽造して何食わぬ顔をして奉公をする使用人たちもいたほどです。

 一番、主人たちが恐れたのは、雇った使用人が窃盗団の一味の場合です。そのときはもちろん、使用人ははじめから盗みが目的ですから尻尾をなかなか出しません。犯罪のプロですから。すぐに逃走したら目星をつけられるため、故意に2、3ヶ月ほど奉公したのち、退職したそうです。

 時代が下るにつれて使用人不足が問題になってくると、軽い処分だけで寛大にも雇い続ける主人もいました。1960年台以降のことです。
 もちろん、小物や服をくすねる程度の軽微な犯罪の場合ですけどね。

 女遊びは、執事の恋愛と結婚で書いたので省略します。

パンチ挿絵
↑高級ワインが濁っていると言う主人に、ボトルごと味見したから一級品だと保証する執事。酒飲みイメージの風刺。