メイドの誘惑(あるいは犯罪)

The Last Cab

いくらか自由のある執事や従僕たちとちがって、メイドの場合、女主人のドレスや小物、装飾品を盗むことはあまりありませんでした。
女性使用人は女主人や家政婦から厳しく行動を制限されていたからです。怪しい行動をしようものなら、すぐに見つかるのもあったのでしょう。盗品を売りさばくにも、外出する必要があります。

そのぶん、料理人や台所女中たちは、役得といわんばかりに材料の余り物をしばしば裏口にやってくる業者に売りました。肉汁やラード、とくにむしった鳥の羽根と獣の皮はいい小遣い稼ぎになりました。あと、特定の商人を贔屓にしたら、仲介手数料を得ることもできました。
家政婦は紅茶の出がらしを売り、執事はコルクと蝋燭の燃えさし、ワイン瓶などです。
Mixed Bag (c) Beverley Art Gallery; Supplied by The Public Catalogue Foundation

捨てるような余り物を売るのなら主人たちは多めに見ましたが、役得がさらに進むと食器ややがてお下がりになるはずの衣装を、勝手に売る侍女もいました。もちろん、発覚すれば解雇です。
それでも誘惑に負けたメイドたちのごく一部は、窃盗という犯罪に手を染めたのです。
なかには屋敷を逃亡する際、あらゆる食器と銀器を盗み出した家政婦と執事もいました。

あとメイドに多かったのが、未婚の子を生み、育てきれず殺す犯罪です。当時、未婚の母親への風当たりは相当厳しく、子どもを育てながら奉公するのはまず無理でした。実家が育ててくれればいいですけど、身寄りがないとどうしようもありません。
泣く泣く(あるいは仕方なく?)、邪魔なわが子を殺し、警察に逮捕されるメイドもたくさんいました。

なかには養育費を得るために、子どもの父親を相手に治安法廷で訴えるメイドもわずかですが、いました。例え勝ち取ったとしても、金額は充分とはいえませんでしたが。

SERVANT KITCHEN