執事の歴史と男性使用人の職種

ベリー公のいとも豪華なる時祷書
↑フランス貴族ベリー公の正餐を描いたもの。肉を切り分けたり給仕をしているのが使用人。

 中世のヨーロッパ。王侯貴族の子息たちが、行儀見習をするために主人である王や上級貴族の城へ数年間奉公したのが、上級使用人の始まりです。小姓や騎士見習いとして主人に仕えました。
 しかし上流の子弟たちは身分が高いこともあり、どうしても甘やかされて怠けてしまいます。あとは身分ある紳士たちでもあるため、賃金も高くつきます。
 そのためだんだんと庶民が使用人として奉公していくようになりました。16世紀~17世紀ごろのことです。

 18世紀になると庶民が財を成して、裕福な中流階級として使用人を雇うようになります。そのなかで、ワイン等の酒類を管理する職種をバトラー――執事と呼ぶように。
 客人たちをもてなす執事たちが、家令の代わりに屋敷の管理を兼任し、主人の秘書的役割になっていきます。ちなみに家令は19世紀になるとエージェントと呼ばれる高給の専門職になりました。使用人としてではなく、プロとして領地の管理と経営をするのです。

 19世紀ヴィクトリア朝になると、現在知られているような執事として彼らは従事するようになります。

パンチ挿絵
↑生意気な小姓と若奥様。

 執事以外の男性使用人の職種を紹介。

・従僕
 ……執事の部下。主人の身の回りの世話をしたり、給仕、接客、銀器の管理、力仕事、主人たちのお伴、執事の補佐をする。屋敷のマネージメント以外の仕事は、ほぼ執事と同じ。身長が高く、ハンサムなほど給金が高く、雇用条件が良くなる。仕事の手際はあまり重視されない。

・小姓
 ……見栄えの良いお仕着せ姿で、主人の外出時にお伴をする少年。アクセサリー的要素が強い。主人の手紙をよその屋敷に届けることも。いわゆるメッセンジャー。19世紀初めに黒人の小姓が流行したことも。

・下男
 ……使用人奉公を始めた少年や、臨時雇いの農夫等。階下の雑用を一手に引き受けた。掃除、皿洗い、農作業、家畜の世話等。小姓と下男を兼任する少年も多く、身長が伸びたら従僕に転職した。

・従者(近侍)
 ……主人の身の回りの世話をする。執事と違うのは、屋敷のマネージメントをしないこと。部下もいない。ひたすら主人ひとりに仕える。

・御者
 ……名前のとおり馬車を動かす使用人。自動車が普及するにつれ、執事や従僕の運転で間に合うようになり、御者の仕事は減っていった。

・屋敷の外の使用人たち
 ……領地の森と、狩猟用の家畜を管理する森番。領地に出入りする者を監視する門番。野菜や果物を作ったり、庭の手入れをする園丁。馬車や競馬用の馬を飼育する馬丁。等。

パンチ挿絵


大聖堂建設にまつわる人々の人生ドラマ小説。中世イングランドの生活と描写が詳しく書かれています。教会だけでなく、上流階級――王や城での生活描写、騎士の戦闘シーンと読みどころたっぷり。執事やメイドなる存在はまったくない時代です。