懐中時計

懐中時計の蓋

懐中時計(ポケット・ウォッチ)は高級品でした。庶民にとって、一生に一度か二度の大きな買い物でした。

1500年代から1890年代の長い期間は、鍵巻き時計式。文字通り、小さな鍵をつかってゼンマイを巻きます。

つぎに登場したのがダボ押し式。時計の小突起を爪で押しながら、竜頭を巻いて針を合わせ、爪を離すとゼンマイを巻ける仕組み。

そして1910年ごろから主流になったのが、竜頭を上げて時刻を合わせるタイプ。ゼンマイ式の腕時計を想像すればわかりやすいかもしれません。

金メッキ鎖:懐中時計

時刻を見るとき蓋を開け、用のないときはポケットやバッグにしまいます。当時時計もガラスも貴重だったので、蓋のついたケースは、本体を傷から守る役目もありました。

紳士はもちろん、淑女たちも小型の懐中時計を持っていました。蓋に緻密な彫刻や、エナメル装飾、金メッキ、七宝焼きの文字盤など、ステイタスを誇示する意味も含まれていました。ただ金時計そのものは稀だったようです。
もちろん貧乏人はシンプルで飾り気のない懐中時計。それでももっと貧乏な人たちはそれすら買えなかったのですけど……。

アルバートと呼ばれる、ボタンホールに留めるタイプの鎖が主流になる1860年以前は、首からぶら下げるのが普通でした。

1920年代になると腕時計が主流になってゆき、ステイタスの証であった懐中時計は、じょじょに姿を消していくのです。
腕時計は第一次世界大戦へ出征した兵士たちが使ったことで、大衆に広く普及しました。たしかに懐中時計だと、時間を確認するのに手間取ってしまいますし、気を取られているうちに命取りにもなりかねません。
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