執事の服装

1870年代の紳士

従僕まであったお仕着せがなくなり、平服での仕事を許されます。ただし主人との区別を厳格につけるため、故意に流行遅れの格好をしました。あるいはちぐはぐな色のネクタイとズボンを組み合わせたりしています。
晩餐の給仕では白ネクタイと燕尾服を着用しました。

おもなスーツの紹介。
およその目安ですが、下に行くほど時代が新しくなります。執事の服装は主人の時代より遅れたデザインです。
従僕の場合、19世紀だと白い巻き毛のカツラに半ズボンと絹靴下、上着はジュストコールか燕尾服が主流でした。

・ジュストコール
17~18世紀に流行。半ズボンとベストと絹靴下とパンプスの組み合わせ。白い巻き毛のカツラもかぶりました。華やかでカラフルな色彩。
ジュストコールジュストコール

・テール・コート(燕尾服)
夜の礼装(イヴニング・コート)。裾がふたつに割れていることから、燕尾服と呼ばれるようになった。19世紀初めまではカラフルだったが、やがて黒に。礼装では白い蝶ネクタイをする。
テールコート夜会服の男女
Spy_Delacouur Giovanni_Boldini_(1842-1931)_-_A_Portrait_of_John_Singer_Sargent
2013/7/16補足。
現代でも礼装である燕尾服のデザインは、非常に身体の線にフィットするように縫製されています。
だから青年時代に誂えたスーツを、中年になって着たら、あまりのきつさに息ができなかったり、ボタンが飛んだり、身体が動かなかったりと、体型維持に苦労する服でした。仕立て直そうにも庶民には高額だったのです。1950年代を舞台にした小説に、そんな描写がありました。
そのため、上流階級の紳士が一分の隙もない、ぴったりとした燕尾服を夜会に着て行くことは、一種のステイタスだったのです。

・モーニング・コート
昼の礼装。貴族の朝の日課である乗馬の乗馬服が由来。
モーニングコートモーニング
Archer_Baker_Vanity_Fair_13_January_1910

・フロック・コート
19世紀中頃の正装。濃紺か黒。軍服が由来。ドラマ版シャーロック・ホームズが着ていたことでも有名。ちなみに探偵のイメージの強いアノ服は、インバネス・コートとディアハット。いわゆる袖なしコートと鹿撃ち帽。原作には登場しない服装です。
フロックコートフロックコート(右・ホームズ)フロックコートのレプリカ
↓初期のフロック・コート
初期のフロックコート

・インバネス・コート
袖なしコート。
インバネスコートエドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ

・ラウンジ・スーツ
モーニングコートの裾を切り落としたのが始まり。おもにレジャー着や普段着として着られていたが、20世紀に入るとビジネス用のスーツに。現在のスーツの原型。
過去のスーツと大きく異なるのは、上着とチョッキとズボンが全て同じ布地で縫製されていることです。(カラーイラスト参照)
ラウンジスーツラウンジスーツ21900年発売シャツ

・ディナー・ジャケット(タキシード)
晩餐用のスーツ。黒い蝶ネクタイ。現代では略式の礼服。
タキシードタキシード

19世紀末ごろの集合写真。いろんなデザインのスーツがあります。
集合写真

スーツの歴史【背広・紳士服・ジェントルマン・イギリス】も参考にしてください。さらに詳しく紹介しています。

スーツの文化史
スーツの文化史
↑参考書籍。旧タイトル「スーツの神話」これ一冊でスーツの歴史を学べます。


Men's Clothing & Fabrics in the 1890s: Price Guide (A Schiffer Book for Collectors) Men's Fashion Illustrations from the Turn of the Century (Dover Fashion and Costumes) 当時の紳士服のカタログ。