当サイトは19世紀の英国、ヴィクトリア朝(ヴィクトリアン)の執事(バトラー)をもとに書いています。なぜならその当時の資料が一番多く出まわっており、なおかつもっとも家事使用人が活躍した時代でもあったからです。
では、ヴィクトリア朝とはどのような時代だったのでしょうか。
産業革命により、これまでにない大衆文化とモノがあふれた始まりの時代でありました。しかし資本主義の発達により、貧富の差も拡大しました。そのなかで労働者階級と呼ばれる貧しい庶民は、およそ8割ほどいました。メイドはもちろん、執事も労働者階級です。
2013年時点の現代と大きくことなるのは、電気がないこと。19世紀末には登場しましたが、用途はごく限られていました。例えば、お屋敷や公共施設の電灯や地下鉄の動力です。一般の家庭向け――すなわち家事動力としての電気はまだまだ実用段階に達していません。
もちろん掃除機、洗濯機、冷蔵庫なんてありません。あと料理をするレンジも石炭を使っていました。石炭は点火に時間がかかり、煤煙も出すためレンジの掃除も毎朝欠かせません。簡単で煙の出ないガスが主流になるのは、1930年台以降です。
そうなると自然と人力に頼らなくてはなりません。家事使用人が必要とされたのもそのためです。
↑万国博覧会。1854年当時のイギリスの隆盛を物語るイラストです。
家事使用人をどれだけ雇うかによって、その家の社会的ステイタスは決まります。もちろん人数が多いほど誇示できます。
貴族や大富豪などの上流階級は、10人以上雇っていました。大邸宅になると100人以上というから、壮大な数です。役割分担も徹底していました。自分たちの領域以外の仕事に手を出してはならないのも暗黙の了解でした。
反対に多くの中流階級の家は、せいぜいメイドがひとりでした。彼女たちは家事をすべて引き受け、雑役女中と呼ばれていました。
メイドをひとりも雇えないと、世間では労働階級とみなされるため、無理をしてでも中流階級の家は家事使用人を雇っていたのです。
メイドは女性使用人ですが、では男性使用人である執事はどの階級で働いていたのでしょうか。
安い賃金で働かされるメイドとはちがい、彼ら男性使用人は一種の贅沢品としてみなされていました。執事や従僕である、接客係の屋内男性使用人雇う場合、税金を収めなくてはなりません。
例としては、20世紀初頭の英国では、1人雇用につき年2ポンドから7ポンドほど。金額にばらつきがあるのは、雇う人数が多いほど、一人頭の税金が高くなるためです。
ちなみに一般的な下級中流階級(ロウア・ミドル)の給金は、週給1ポンド程度でした。事務員の一家族が一ヶ月約5ポンドほどで生活してたのですから、税額の高さをうかがい知れます。
男性使用人のランクは下から順番に、下男(ホールボーイ)→従僕(フットマン)→執事となります。執事だけでなく、専用の従者を雇う紳士もいました。
19世紀の初めごろまでは、さらに上位の家令(ハウススチュワード)もいたのですが、時代が下るにつれて経費がかかることもあり、雇える家は減りました。
ですから、執事を雇っているというだけで、その家は上流のステイタスがあるとみなされていたのです。