メイドは恋愛禁止。
となってはいるものの、出会いがないと結婚はできません。当時、女性が生涯独身でいることは、とても惨めなことでした。女は結婚して子ども(男子)を産んで一人前という価値観ですね。
しかしヴィクトリア朝は女余りの時代、そして第一次世界大戦後は兵隊で若い男性がたくさん戦死したため、結婚相手を見つけるのは大変でした。
どうやって見つけるのか。
一番、多かったのは、故郷の村で恋人を作ることでした。メイドとなる前に男友達を作っておき、仕事をしながら文通。たまに再会、年頃になったら結婚です。彼女たちは農家の主婦として暮らしました。
同僚と交際ののち、結婚もよくありました。しかし主人に知られてしまうと、メイドが解雇されてしまうため、慎重に交際をしなくてはなりません。
そしてもっとも最悪なパターンが、メイドが妊娠し、相手の執事や従僕がシラを切り通すこと。いくら恋人でも、いざそうなると尻込みしてしまう男はたくさんいました。世帯を持つと仕事がなくなる男性使用人が保身のために、嘘をつくのです。
相手が誠実だったら、互いの給金を貯めてパブや宿屋を経営するのが普通でした。
あとは屋敷に出入りする業者の男と親しくなったり、パトロール中の警官、兵隊さんと公園で知り合う等です。散歩をしながら、ときには子守を兼ねて公園へ出かけるのは、当時の気晴らしのひとつでした。
なかには婚約していても、相手の男性が遠くへ転職してしまい、なかなか結婚できないメイドもいました。世帯を持つためにお金を貯めようにも、稼ぎがともに少ないと結婚もできません。
そして未婚で子どもを産むと、世間的に体裁がかなり悪くなるのもあり、わが子を捨てたり孤児院へ出すメイドもいました。愛するひとの子どもでも、生きるためにはそうするしかなかったのです。
残念ながら、ロマンス小説のような身分違いの恋愛結婚はまずありませんでした。
……あったことにはあったのですが、秘密結婚をしていたから、夫婦として生活ができなかったメイドもいました。世間知られてしまうと、主人の立場が無くなってしまうからです。
あと、主人や若主人に言い寄られるメイドもいました。美しい彼女をモノにしようと、主人はプレゼントをこっそり贈ります。
甘い夢を見たメイドはついに身体を許すのですが……、オチは従僕と同じ。
泣く泣く実家に戻るか、救貧院で出産するしかありませんでした。いくら高貴な血が半分流れていても、母親が賤しければ、その子どもも賤しい身分のままでした。
おすすめ資料本
図説 英国メイドの日常 新装版 (ふくろうの本/世界の文化)
主要参考文献
ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界