紅茶とお茶会

Alice's Adventures in Wonderland
『不思議の国のアリス』永遠に続く、気違いのお茶会の挿絵。ヴィクトリア朝時代の子どもたちは、午後のお茶が夕食の代わり。

イギリスにおける紅茶の歴史

イギリスでは茶が登場するまで、エール(ビール)が飲まれていました。
茶が飲まれるようになったのは、17世紀が始まりだといわれています。1662年オランダから、チャールズ二世に嫁いできたキャサリン妃が王室に伝えました。当時、オランダは世界で屈指の貿易国で、中国や日本から茶や茶器を輸入していたのです。

上流階級で飲まれていた茶は、18世紀ごろ中流階級にも広まり、緑茶とボヒー茶(ウーロン茶等)が飲まれました。19世紀前半にインドで茶木が発見され、プランテーションができたことで、またたくまに紅茶が広まります。
もっとも有名なプランテーションがリプトン。19世紀末、セイロンで大量生産した紅茶を世界に広めたことで、名を知られるようになりました。

Tea picking No.1.
セイロンで茶摘をする女性。

インドで大量生産され、1853年に関税が撤廃したこともあって、労働者にも紅茶が普及しました。しかし、使用人初め労働者には、まだまだ高価な嗜好品。そのため出がらしを集めた廉価紅茶や、偽物を飲みます。粗悪な偽物は、高級な緑茶に似せるため、緑青(毒)で色付をしたものもありました。
ちなみに出がらしは、メイドや執事たちが売りました。もちろん、主人たちの飲んだあとの茶葉です。

紅茶には砂糖とミルク(高級になるとクリーム)を入れます。18世紀、砂糖は贅沢品でしたが、19世紀に関税が撤廃されると、紅茶同様、必需品となります。固い棒状のものを砕いていたのが、角砂糖が登場して手軽になり、普及に輪をかけました。

Tea on the verandah, 1900-1910
ベランダでのお茶会。執事が給仕。

アフタヌーン・ティーとハイ・ティー

上流階級~中流階級の昼食は軽くすませました。しかし晩餐は遅く(だいたい20~21時ぐらい)、それまでの空腹を満たすために始まったのが、アフタヌーン・ティー(午後のお茶)です。
アフタヌーン・ティーはだいたい15時~18時ごろで、主流は17時です。紅茶とともに軽食と菓子が出されました。
お茶会は「家庭招待会」とも呼ばれ、社交界の噂やパーティの計画等、女性たちの交流場でもありました。暖炉のまえで行われ、女主人が紅茶を注ぎます。

主な軽食にサンドウィッチがあります。19世紀前半は冷肉やハムが挟まれたものが好まれ、1870年以降になるとキュウリとミントが人気になります。当時イギリスでは、キュウリは温室でしか栽培できないため、高級な野菜でした。
ほかに主流だったのが、薄いバタートーストです。バターは贅沢品。鏡の国のアリスに登場する、透けるほど薄いバタートーストの羽を持った蝶は、ケチな奥さま連中への皮肉ともいわれます。

菓子には、ケーキ、スコーン、ビスケット、タルト、アイスクリーム、果物がありました。ヴィクトリア女王の好物は、苺ジャムと、泡だったクリームが塗られたスポンジケーキだったとか。
赤ワインやシャンペン、コーヒーがついてくることもあります。紅茶以外の飲み物も飲まれました。
豪華なお茶会はたくさんの菓子が供されますが、家庭的になるとサーディンやマフィン、クランペット(ホットケーキ)がついてきます。

ハイ・ティーは労働者階級のお茶の時間で、肉料理付きの夕食を兼ねています。労働者は昼がもっともボリュームのある食事で、夜は軽めにすませました。家事使用人も労働者なので、午餐である昼食がメインでした。

Afternoon-Tea-at-the-Ritz
リッツホテルのアフタヌーン・ティー。

茶の種類

【茶葉】
・アッサム……イギリス人が初めてインドのアッサムで栽培した茶。良質でコクがある。
・セイロン……スリランカで栽培された良質な茶。
・ダージリン……ヒマラヤ山麓にあるインドのダージリンで栽培した茶。世界一美味しいといわれ、アフタヌーン・ティーでよく飲まれる。
・フォーモーサ・ウーロン……台湾で採れる高品質のウーロン茶。
・ガンパウダー……中国の緑茶。
・キーマン……最も高級とされる中国の茶。蘭の香りがする。
・ラプサン・スーチョン……有名な中国産の紅茶。スモーキーな味。
・ニルギリ……インド産で、ブレンドとして使われる。
ほかに、番茶、ウーロン茶、抹茶、雲南があります。

【ブレンド茶】
・アール・グレイ……トワイニング社がアール(伯爵)・グレイ二世チャールズのために作ったブレンド紅茶。アフタヌーン・ティーで飲まれる。
・イングリッシュ・ブレックファースト・ティー……インド茶とセイロン茶のブレンド。渋みがあり、朝飲むのに適しているといわれる。
・ジャスミン……ジャスミンの花と葉を茶葉に混ぜたもの。
・オレンジ・ペコー……良質なセイロン茶のブレンド。柑橘類はまったく入ってない。
・ロシアン・キャラバン……18世紀初頭、中国とロシアの貿易のために作られた。粉状に圧縮して固めたものもある。

【フルーツ・ティーやハーブティー】
アップル・ピーチ・マンゴー・ストロベリー。レモン・バーベナ。レモン・オレンジ。ペパーミント。ローズヒップ。タイム。オレンジの花・蓮・薔薇・菊・カモミール。等等……。

・イギリスでミルクティーが好まれる理由。
ロンドンの水は石灰質が含まれ硬度が高く、紅茶の渋みと香りが抑えられ、色が濃くなります。まるでコーヒーのように黒くなるので、白いミルクを入れることで美味しそうな色になるのです。

茶の道具

ヴィクトリア朝では、紅茶を飲むための銀器セットを持っていることが一種のステイタスでした。精巧な装飾は、客人に見せるためでもありました。手入れが難しいため、現在、銀製はほとんどなくなり、凝った装飾の道具を揃える人も少なくなっています。

・キャディ・スプーン……キャディから茶葉をすくう銀スプーン。貝殻の形で作られた。
・モート・スプーン……茶殻をすくう穴の開いた銀スプーン。
・マフィン・ディッシュ……マフィンを冷まさない道具。ドーム型の蓋がつき、下部にお湯を張っておける。
・砂糖ばさみ……角砂糖をはさむ。ピンセット型とはさみ型がある。
・ティー・キャディ……茶葉を保管する容器。銀、陶器、木製、ガラス製があり、凝った装飾がついていた。
・ティー・ストレーナー……ポットから流れ出る茶葉を漉す道具。
・ティー・トレイ……銀製か銀メッキの楕円形の盆。両脇に取手がついている。
・ティー・カップ……初期のころは取手のないコーヒーカップのようだった。やがて装飾され、現在のような優雅な形に。
・ティー・ケトル……お湯を入れる銀製ポット。ヴィクトリア朝では台所でお湯を入れて居間へ持って行き、三脚の上に置いてアルコール・ランプで温めた。

Silverware on four shelves, Government House, Canberra, 1927

※2018年11月追記
Discover Art & Artists | The Art Institute of Chicagoシカゴ美術館のサイトにて、たくさんの銀器等が写真展示されています。(DRINKING…のカテゴリに有)以下はその一部。