電気も通信も現代ほど発展していない19世紀当時の人々は、どんな娯楽で余暇を楽しんだのでしょうか。おもなものをいくつか紹介。
・大道芸人
……歌や踊り、楽器演奏で道行く人々を楽しませた。ヴァイオリン始め、チェロ、シンバル、太鼓、トランペット等々で賑やかしかった。個人だけでなく、時間の空いた楽団もいた。ほかに操り人形劇がある。有名なのが『パンチ&ジュディ』。その他は奇術、機械仕掛け、覗き眼鏡。
・パノラマ絵画館
……旅行者が旅の途中で描いた絵画を鑑賞。旅行がまだまだ高嶺の花だった時代、庶民が手軽に外国を知ることができた。インド、アメリカ、ニュージーランド、パリ、イスタンブール等の景色を鑑賞。
・動物園
……1828年にリージェンツパークで初めて開園。サイ、白熊、キリン、水牛、豹、アザラシ、リャマ、陸ガメ、鷲、ダチョウ、コブラ等々。1850年の時点で、哺乳類3554匹、鳥類853羽、爬虫類154匹。
・展示館
……1851年5月から9月にハイドパークで開催された万国博覧会が最も有名。世界中の工業製品や芸術品を展示した。世界中の宝物や歴史物を集めて展示している大英博物館も、当時から人気があった。1802年にタッソーの蝋人形館が開園し、こちらも人々が訪れた。
・遊園 ティーガーデン
……18世紀に上流階級が好んででかけた。園内中央のパビリオンを囲むように、たくさんのあづま屋があり、そこで食事や語らいを楽しんだ。男女のデート場でもあった。パビリオンでは楽団が演奏したり、歌手が歌った。ときに花火や気球をあげる催しがあった。温泉の近くで保養地としても人気があった。水晶宮に客を奪われ、19世紀なかばには廃れた。
・ボクシング観戦とスポーツ
……初めは野蛮な庶民の娯楽だったが、徐々にルールが厳格になっていき、19世紀末には現在知られるボクシングになった。中等学校や大学でのスポーツが盛んになり、サッカーやクリケットが普及する。
・観劇とミュージックホール
……コヴェントガーデン、ドルリーレーン、ヘイマーケットの王立劇場が有名。入場するには格安の天井桟敷を除き、ドレスコードでないと入場できなかった。それ以外は庶民向けの芝居が上演される大衆劇場だった。オペラや古典劇だけでなく、歌や演奏、ダンスも披露された。大衆劇場が廃れると代わりにミュージックホールが台頭する。庶民は酒を飲みながら、歌や劇を楽しんだ。
・読書
……新聞。『タイムズ』上級紙で、知識階級がおもに読む。『デイリーテレグラフ』19世紀なかばに創刊され、大衆紙の代表。
……雑誌。18世紀初めは知識階級である紳士向けしか出版されていなかったが、19世紀なかばになると、女性誌が数多く誕生した。読み書きの教育を受けた女性が増えたからだ。料理やファッション、連載小説が人気があった。
……本。新聞や雑誌のような大衆向けがまだなかったころは高価なため、貸本屋が庶民に流行した。ミューディーズが有名。19世紀末ごろになると駅のキオスクで安価な読み捨て本が登場したことで、ポーやドイルといった推理小説が大流行する。
・サイクリング
……自転車を参照。
・旅行
……鉄道が発達したことで、庶民は国内旅行を日帰りで楽しんだ。夏は海水浴が人気だった。ブライトンが有名。上流階級はお金のかかる海外旅行で、庶民との格差を誇示した。
・ギャンブル
……最も知られているのが競馬。上流階級がドレスコードで社交を楽しんだ。当時はギャンブルも紳士のたしなみのひとつで、カードゲーム賭博で大金を失う者がいたほど。
・好ましくない(とされる)娯楽
……熊、犬、ネズミなどの動物イジメ。残酷だというので、19世紀なかばごろに下火になる。
……公開処刑見物。1863年に完全廃止されるまで、庶民の娯楽だった。かのディケンズも見物している。
……娼婦。ヴィクトリア女王の治世では禁止されていたが、必要悪として男たちが春を買った。紳士向けの高級娼婦から庶民向けの貧しい売春婦までいた。
おもな参考書籍
図説ディケンズのロンドン案内
↑19世紀なかばごろのロンドンの暮らしぶりが、詳細に書かれています。
デパートを発明した夫婦 (講談社現代新書)
↑19世紀末に大流行したデパートの発祥の背景と中流階級のショッピングあれこれ。