パブリック・スクール――イギリス的紳士・淑女のつくられかた


パブリック・スクール-イギリス的紳士・淑女のつくられかた (岩波新書)

英国における学校の文化をコンパクトにまとめています。過去から現代まで時代も幅広いです。

初めは貧しくて学校に行けない少年たちのための慈善学校(グラマー・スクール)だったのが、運営するにはお金が必要になって、上流階級の子弟が通うになるのがパブリック・スクールです。
しかし19世紀始めまでは、パブリック・スクールは血気盛んな少年をしつけるための学校でした。やんちゃな貴族を一人前の紳士に育てるためです。飲酒や暴力は日常茶飯事でした。

秩序ある学校にしようと改革したのが、アーノルド・トーマス。監督生やファギング(上級生を下級生が召使のようにお世話する制度)が始まったのも、氏が提案したものです。
そして良いイメージを確立させるため、少年向けの読み物雑誌に清く正しい主人公が活躍する、パブリック・スクール物語を掲載します。それを読んで憧れたのが、中流階級や労働者階級の少年たちでした。

しかし男子校なので、実際はあい変わらず暴力やイジメ、答案を丸写ししたり、授業をサボったりしていたそうです。その内実を書いた自伝小説が20世紀始めごろから出版され、問題作になりました。

女子向けのパブリック・スクールが登場したのは、19世紀半ば。初めは家庭の事情で自活せざるを得ない少女のために、家庭教師になるための学校でした。
それが20世紀に入ると、女性が就職して自立するための学校に変わります。男子のように集団生活をし、勉強とスポーツをすることで、男らしい女性になる、と批判されることもありました。もちろん、裁縫や料理といった主婦になるための授業もあったそうですが、卒業生は紳士のように態度が堂々としていたそうです。

昔から存在していたグラマー・スクールですが、ほとんどはパブリック・スクールにならず、1976年に労働党が廃止するまで存続しました。現在は公立の中学校コンプリヘンシヴ・スクールに変わったのです。
日本でいう高校も兼ねているスクールは、そのまま卒業するグループと、進学するため2年残るグループに別れます。しかし進学できないグループが足を引っ張ってしまい、現在は不良だらけの荒れた学校だとか……。勉強どころではないそうです。

こういうのを読むと、伝統の大切さがわかります。
パブリック・スクールのようにお金持ちしか入学できなかったり、グラマー・スクールのように勉強ができないと奨学金が出なかったりするのは一見、不公平なようで、そのじつ理にかなっているのかもしれません。

投稿日2017年04月02日