地図と写真を参考にしながらホームズが活躍したロンドンを紹介する内容――かと思ったら、考察が大半でした。
ホームズが活躍した19世紀末ロンドンについてのあれこれを書いてます。
以下、項目と簡単な内容を紹介。
・(間違った)正体?
……いわゆる序章。ホームズが活躍した当時のロンドンは、警察機構が整ったものあって劇的に凶悪犯罪が低下した時代。諮問探偵であるホームズへの依頼はあまりなかったはず。かといって、つまらない小悪党を捕まえる仕事には興味を持っていないのもあり、たびたび上中流階級の依頼人が訪れるという設定そのものがフィクション=間違ったロンドンのイメージ。
あと作者ドイル自身、ロンドンに定住したのはほんの一年足らずだったため、物語のロンドン描写が薄かった。設定ではホームズはロンドンに詳しいとあるので矛盾している。
・シャーロック・ホームズの”ボヘミアン的な生活習慣”
……ボヘミアン=自由な生活を謳歌する生き方のこと。労働者のようにあくせく働かず、結婚生活に縛られない彼らは、そう呼ばれた。上中流階級の紳士や芸術家、有名俳優など。ホームズもそのひとり。夜になると仲間と集い、飲食喫煙をしながら語らった。厳格だと思われがちなヴィクトリア朝の道徳へのアンチテーゼ。
・シャーロック・ホームズ、シドニー・パジェット、そして<ストランド>
……ドイルは連作形式の連載を初めて試みたことで、ホームズシリーズに多くのファンを作った。長編連載だと途中の号から読み始めた読者は脱落してしまうが、読み切り短編形式だとどの号でも楽しめるという画期的なアイデアだった。登場人物は同じだから、連載もののように愛着がわくのも成功した理由のひとつ。
・シャーロック・ホームズのアート
……当時のロンドンの街を描いた絵画の紹介と解説。
・ホームズを切り捨てる
……連載当初は現代的な探偵だったホームズだが、休載ののち復活したころは時代遅れになっていた。20世紀以降、常に近代化するロンドン。町並みはすっかり変わり、情報伝達も桁違いに増え、ラジオの登場。そして世界大戦で、さらに時代は進むも、物語のなかのホームズは19世紀末のまま。それでも絶大な人気があったホームズを、結局ドイルは切り捨てることができなかった。
・無声映画のシャーロックたち
……ドイルが存命のときからすでに劇場化、そして映画されたホームズもの。1911年に著作権法ができるまでは、無断上映や海賊版が横行していた。19世紀末を舞台にした映画は以外に少なく、上映されたその時代を舞台にしたドラマが大半だった。
ロンドンとホームズの写真やイラストがたくさんありますが、資料としては少し弱いかもしれません。ホームズ好きなら読み物として楽しめます。
当時のロンドンの雰囲気や出版事情について知りたかったらおすすめです。
投稿日2016年05月28日