産業革命で失った食材と始まった食材

1857年の軽食

イギリスの料理はまずいことで有名ですが、食材の多様性を失った産業革命後から「まずく」なったと言われます。
しかし上流階級は変わらず美食を追求した晩餐を食べていましたし、レストランやクラブも同様でした。それらを作っていたのは、当ブログでおなじみのとおり、労働者階級の使用人たちです。

農民たちは共有地に入って、果実、魚、鳥獣、きのこを採取できたのですが、18世紀後半の囲い込みによって地主の私有地になったために、立ち入りできなくなりました。そして豊かな食文化が失われ、冠婚葬祭でごちそうを作って食べる習慣がなくなります。それが「イギリス料理はマズイ」の発端でした。

イギリス料理の代わりに貴族や地主たちはフランス料理を料理人に作らせます。
同時に茶会が発展し、スコーンやタルトが新たなイギリスの食文化になりました。

19世紀初頭まで多用され、その後レシピに登場しなくなった食材
鹿肉、白鳥、鳩、ウサギ、キジ、雷鳥、プルーン、ブルーベリー、グズベリー、干しぶどう、セージ、ニンニク、フェンネル、クレソン、ローズマリー、カタバミ、からし菜、タンポポ、干しえんどう豆、ローズウォーター、りんご酒、ワイン、サイダービネガー、ショウガ、サフラン、シナモン、ナツメグ、チョウジ、アーモンド、アニス、甘草、オレンジ、レモン、アンチョビ……等。

16世紀頃から現代まで多用されている食材
ニンジン、セロリ、玉ねぎ、キャベツ、ジャガイモ(17世紀~)、牛肉、羊肉、鶏肉、獣脂、バター、クリーム、塩、パン粉……等。

19世紀なかば頃から大量あるいは新たに使用されている食材
レモンエッセンス、ゼラチン、瓶入グレービー、マッシュルームケチャップ、ハーヴィー・ソース、レイズンビー・アンチョビエッセンス、リーヴィグ社の肉エキス、固形スープ、瓶詰あんずジャム、ソーセージ、ベーコン、ハム、マーガリン、タラ、カレイ、オヒョウ、インディカ米、カレー粉……等


↑アプリコットジャム


↑マッシュルームケチャップ


↑グレービーソース

ヴィクトリア朝に入ると、食品工場で作られた加工品を多用しているのが読み取れます。
18世紀まではサラダを食べていましたが、新鮮で清潔な生野菜が入手できなくなったことで、廃れてしまいました。
農民たちは囲い込みで土地を失い、自分の小さな菜園で野菜を育てる習慣が失われたためです。どこのだれが育てたかもわからない野菜は、家畜の糞尿で汚染されているかもしれず、そのまま食べられなかったそうです。

参考文献

文藝春秋SPECIAL 2017年秋号[雑誌]世界近現代史入門
※産業革命がイギリス料理を「まずく」した より。