19世紀末ごろのヨークシャー地方の食卓

児童文学『秘密の花園』は、ひねくれ者のお嬢様であるメアリが遠縁のお屋敷に引き取られ、快活で明るい少女に成長する物語です。作者はヨークシャーの自然あふれる豊かな生活と食卓を、作品の中で再現しています。
子供たちは当時のお屋敷ではいったいどんな食事をしていたのでしょうか。ヴィクトリア朝時代、ヨークシャー地方の食卓を紹介します。

ブレックファースト by Kevin Meredith

朝食

ヨークシャー地方の朝食はベーコンと玉子が欠かせない。パンが添えられ、肉料理が3皿ほど出た。
ポリッジ……別名オートミール。オーツ麦のお粥。砂糖とクリームをかけて食べた。貧しい家庭はスキムミルク。
カードルド・エッグ……カップに割り入れて茹でた玉子。
チーズマフィン
リトルソーセージケーキ……豚ひき肉にナツメグとセージ等のスパイスを入れて作ったソーセージを焼いたもの。
ココア

プディングいろいろ

昼食

子供はランチが午餐。子供部屋で食べた。
ヨークシャープディング……しばしば前菜で出され、グレービーソース(肉汁)をかけて食べた。冷めるとしぼむため焼き立てが大事。
ローストチキン……オーブンでのローストには技術が必要なため、当時の人々は肉屋に鶏を持ち込んで焼いてもらった。
ポテトスノー……マッシュポテトに塩コショウとパセリを添えたもの。
ウェルッシュ・ラビット……チーズトースト。ウサギ料理ではない。
キャビネット・プディング……カスタードプディングをフルーツでカラフルに飾ったもの。
ジャム・ローリー・ポーリー……薄く伸ばした小麦粉の生地でジャムを巻き、焼いてカスタードソースをかけたもの。

キューカンパー・ティー・サンドウィッチ by ahthatslove

午後の茶

アフタヌーン・ティーの習慣は18世紀、第7代ベッドフォード公爵夫人アンナが始めたとされる。
ティーポットに淹れた紅茶
キューカンパー・ティー・サンドウィッチ……キュウリのサンドウィッチ。水っぽくならないようパンは軽く載せ、お茶の時間直前に作った。
スコーン
フルーツ・ティーローフ……紅茶の葉が入ったドライフルーツケーキ。
レモンカード・タルトレット……マフィン型で焼いたレモンタルト。
ブランデースナップバスケットとホイップクリーム……小さなカップ状に焼いた薄いクッキーに、クリームを詰めたお菓子。

サマープディング by quietpurplehaze07

菜園と季節のレシピ

冷蔵庫のないヴィクトリア朝のお屋敷には庭に菜園があった。毎日、採れたての野菜や果物が食卓に並んだ。菜園は4つに区切られ、ハーブ、根菜、サラダ用の葉、アスパラガスとブロッコリー等栽培面積が広い作物用。塀の外に生ゴミを捨てるスリップ・ガーデンには、サクランボやプラム等が植えられた。
春のグリーンピースとミント……砂糖のほのかな甘味とミント風味。ヴィクトリア朝の人々はグリーンピースを好んで食べた。
にんじんグラッセ
サマープディング……食パンを敷き詰めた型のなかに煮たベリーを詰めた赤いプディング。一晩重しをし、食べる直前に型から外した。
ツー・フールズ……アプリコットやグーズベリーを甘く煮たものにホイップクリームを合わせたもの。
ラズベリージャム
ラズベリービネガー
スパイスで香りをつけた洋梨のゼリー……スパイスの風味をきかせたリンゴジュースで洋梨を煮て、花形に固めたデザート。
ストロベリーとクリーム……生のイチゴに生クリームをかけたもの。

コーニッシュ・パスティーズ by Tony Worrall

ピクニックのお弁当

ヴィクトリア朝時代にピクニックが広まった。子供たちの集まりや、女性はスケッチ、男性は遺跡やきのこ観察をした。とくに野鳥の狩猟パーティが豪華で執事が給仕をした。
ローストポテトとエッグ……玉子や新じゃがいもをオーブンで焼いたもの。
カランツ・バンズ……カラント(甘みの強い小さなブドウ)とスパイスを混ぜこんで焼いたパン。
クランペット……イングリッシュ・マフィンに似ているがそれより柔らかい。
コーニッシュ・パスティーズ……冷たい肉のミートパイ。コーンウォール地方で生まれ、労働者階級が好んで食べた。
チョコレート・ピクニックビスケット……市販のビスケットを砕き、バター、ココア、シロップ、砂糖を混ぜて冷やし固めたケーキ。

ケジャリー by zoeyfrancis

インド風料理

植民地時代のインドに駐留した中流階級がイギリス風にアレンジしたインド料理をティフィンと呼んだ。スパイスを控え食べやすく工夫した。
ベーコンとコリアンダーのミニパンケーキ……パンケーキに細かく刻んだ焼いたベーコンと香草を混ぜたもの。チャツネをかけて食べた。
マルガトゥニー・スープ……マルガニートゥニーはコショウの意味。ご飯のうえにスパイス風味のカレースープをかけた。
フローレンス・ナイチンゲールのケジャリー……米を煮たものに燻製の魚とコショウ、ナツメグ、玉子を加えたもの。朝食によく食べられた。ちなみにナイチンゲールに意味はなく、ヴィクトリア朝時代はメニューに有名人の名前をつけるのが流行した。

コテージ・ローフ by French Tart

農家の食卓

古いコテージに住む農家の主婦は、夏に冬のための保存食を大量に作った。暖炉を煮炊きに使い、寒い日はつねに冬野菜のシチュースープが煮えていた。家庭菜園や豚を飼育し、自給自足の生活が当たり前の時代だった。
タティー・ブロス……残り野菜を塩コショウとチキンスープで煮たもの。ジャガイモ、玉ねぎ、ニンジン、カブ等等。
ピース・プディング……乾燥したエンドウ豆を布で包んでベーコンと塩でいっしょに煮たものに、ウスターソースをかけて食べた。
ヨークシャー・オーツケーキ……オートミールを細かく砕いて焼いたパン。牛乳やスープをかけて食べた。
コテージ・ローフ……ふたつ重ねのパン。農家のオーブンは小さく、大きなパンが焼けなかったため。
ドーケーキとブラウンシュガー……小さく丸めた種にブラウンシュガーを入れて焼いたパン。軽食や特別なおやつになった。
パーキン……ジンジャーブレッド。細かく刻んだオートミールと小麦粉、糖蜜を入れて焼いたパン。おやつはもちろん、労働者階級の人々はお弁当にして1週間かけて食べた。

参考文献

秘密の花園クックブック
上記で紹介したメニューのレシピと詳しい時代背景が書かれています。イラスト付き。(写真が少ないのがやや残念)

映画

秘密の花園 (字幕版)

原作