馬車は非常に高価な乗り物でした。自家用馬車を所有していれば、アッパーミドル(中流の上)以上の階級とみなされていました。
馬車本体の値段はピンキリ――もちろん庶民には手が出せない価格。現代でおよそ3000万円の価値だそう――ですが、維持費が高くついたのです。世話をする馬丁や馬車を操縦する御者を雇い、そして馬小屋、飼葉を買わなくてはなりません。
ちなみにある内科医が馬車をを一台所持していましたが、年収は3000ポンドほど。当時の中流階級の平均年収がおよそ300ポンドですから、かなりの収入がないと買えない贅沢品です。
だから馬車を所持していれば、女性にとてもモテたそうです。富裕層の証ですから(笑)
馬車のなかでもっとも高いのが大型箱馬車(ブルーアム)。四輪と二輪があり、貴族用には家紋がついていました。
女性のお散歩用に人気があったのが、小型無蓋二輪馬車のヴィクトリアです。自分で操縦しました。
なかには見栄を張って馬車を買ったはいいけど、御者を雇うお金がもったいなくて自分で操縦や、昼夜兼用できるように屋根を開閉できる馬車を所持する紳士もいました。もちろん、ステイタスシンボルとしてのランクは下がります。
維持費がバカにならないため、ほとんどの紳士たちは辻馬車(ハンサムキャブ・一頭立二輪馬車)ですませ、庶民は乗合馬車(オムニバス)を使いました。現代でいうタクシーと乗合バスです。
19世紀の終わりに自動車が登場します。有名なのがベンツとロールスロイス。
初めは馬車同様、お金持ちでないと所持できない代物でしたが、大衆車(フォード)の登場で一気に普及し、馬車に取って代わられました。1908年以降のことです。
馬車のようなヨーロッパ的な貴族趣味は廃れ、アメリカの庶民向け大衆車が台頭しました。