「執事の歴史」でも書いたように、当初の仕事は酒類の管理でした。やがて屋敷の管理と主人の秘書を兼ねるほかに、部下たちの管理もしました。階下のトップとして君臨するのです。
敬意を払ってファーストネーム(名前)ではなく、「ミスター+姓」と呼ばれました。
主な仕事を簡単に紹介。
……給仕と接客。
執事の最も大切な仕事。従僕とともにお客様へのおもてなしをこなします。宿泊客のお世話も。もちろん毎日、主人たちのお世話もします。
……手紙の仕分け。
当時は電報と手紙しか連絡手段がないのもあって、現在では考えられないほど大量に配達されていました。仕分けし、銀盆へ乗せて、主人たちへ差し出したのです。
……新聞にアイロンがけ。
主人へ給仕する目覚めの紅茶とともに、アイロンがけをすませた新聞を茶盆に置きます。アイロンがけをするのは、新聞のインクを乾かして手や服を汚さないため。
……ワインセラーの管理。
酒類は貴重であるため、常時、施錠されていました。お屋敷によっては酒造も。ワイン瓶だけでなく、酒庫の鍵の管理をしていたのが執事です。帳簿も管理していました。
……男性主人の身支度。
上流階級のステイタスのひとつとして、着替えを自分でしない、があります。たとえ着替えができても、執事や従僕を雇っていたら彼に身支度を手伝わせました。ヒゲソリや散髪、衣装の管理もします。
……主人のスケジュール管理。
毎朝、一日の予定を主人から聞きます。その内容によって、使用人たちのいる階下のスケジュールも決定します。
……男性部下の監督、教育。
おもに従僕の教育。下男はおもに従僕から。階下の風紀や規律を重んじるため、部下たちを指導(あるいは叱責)するのも執事の役目でした。厳格な父親みたいなものですね。
……下級使用人の雇用。
執事は主人が直接面談をして雇用していましたが、従僕と下男は執事が面接をしていました。前の雇い主が書いてくれる紹介状(人物証明証)がないと、転職は絶望的でもありましたが。
……銀器の管理と手入れ。
銀器は当時は貴重品。鍵のかかる保管庫で管理していました。盗難を防ぐため、下男や従僕がその部屋で就寝する屋敷もありました。手入れも大切な仕事で、銀器は使用後、すぐに磨き上げないと曇ってしまいます。皿、ナイフ、フォーク、スプーン、お盆、ポット、燭台等など、種類も数も豊富にあります。ワインを入れるグラスの管理も含まれます。
ちなみに食品や陶器、雑貨等は女中頭である家政婦が管理していました。
……主人の狩猟や釣り、旅行のお伴。
従者がいれば執事はお屋敷で留守番です。あくまでも仕事なので、出発前の準備や交通の手配、現地でのお世話などが待っています。それでも当時は旅行そのもの――とくに海外旅行が珍しかった時代ですので、その恩恵をたっぷりと受けた執事や従者、侍女たちもいました。
……屋敷の戸締り。
主人たちが寝静まった深夜、ランプ片手に戸締りのチェックをします。
……その他。
以上だけでなく、いつなんどき、突発的な仕事がやってくるかはわかりません。住み込みの上級使用人として、いつでも主人の要求に応えるのも仕事のひとつです。
超有能執事(従僕)ジーヴスとダメ主人のコメディ。原作小説と漫画版。
ファッションに無頓着な紳士の服選びも、執事の仕事のひとつでした。スーツはもちろん、ネクタイから靴下まですべて揃えます。書籍の表紙は、センスのない藤色の靴下を、ジーヴスが主人バーティから取り上げる有名な場面です。