ロンドンの怪奇伝説 スウィーニー・トッド

ロンドンの怪奇伝説(絶版)

主に18世紀から19世紀のイギリスの首都ロンドンに伝わる、怪奇な言い伝え――都市伝説を検証したものです。日本ではあまり知られていない『バネ足ジャック』『スウィーニー・トッド』『地獄の火クラブ』の3編が紹介されています。

ヴィクトリア朝時代は産業革命によって、人々の生活を豊かにする一方で、貧富の差が大きくなりました。そして混沌とした大都会には、残忍な殺人事件もあります。しかしその情報は市井の人々の好奇心をかきたてるため、ゴシップ記事となって読まれるうち、奇怪な噂話となっていきました。そして三文小説や芝居小屋で上演され、都市伝説として今日まで生きているそうです。

『バネ足ジャック』
切り裂きジャックならぬバネ足ジャック。なんでもその名の通り足にバネをつけた怪人が、夜道を歩く娘たちに、青い炎を吐いて驚かせることを至上のよろこびにしていたとか。しかしイタズラ好きな以外は、特に害がなかったため、人々からは愛される存在に。
切り裂きジャックは日本でも有名で、猟奇的殺人犯として知られていますが、同じジャックでもこれはかわいらしいようです。いかにも伝説のようですが、実際にバネ足ジャックは存在しました。イタズラ好きで有名な放蕩貴族ウォーターフォード侯爵だといわれているようです。若い女性が悲鳴を上げるのを見るのが大好きって…………ただのヘン○イだったご様子。そんなお人が侯爵だったとは、ロンドンの人々も大変です。

『スウィーニー・トッド』
恐怖の床屋。スラム街に店を構え、髭剃りにやってきた客たちが椅子に座っている間、その椅子を回転させては、金品を奪ったとか。落下した先は地下室で、気絶している客を棒で殴り殺したそうです。これだけならまだただの強盗床屋ですが、さらに恐怖なのはその死んだ客たちの肉を、隣の店でミートパイにして売ったこと。しかもそのミセス・ラヴィトのパイ屋は町一番の評判。昼にはたくさんの人々が買いにやってきたそう。やがてその悪事は暴露され、判事によって捕らえられ、彼は処刑されました。
元々、これはメロドラマとして、読み捨ての読み物雑誌に連載されましたが、主役よりも悪役の床屋に人気が出ていき、大ヒットの芝居になったそうです。大衆の興味をそそるよう創り上げられた物語の要素は、今日に通ずるものがありました。幽霊・怪奇ものや、メロドラマはそのころ発展していき、小説という形になっていったようです。
なんと、恐怖の床屋とパイ屋は実在したそうで、フランスでの事件がモデルになったのは、驚きです。

『地獄の火クラブ』
一言で説明するならば、大貴族たちの節理のない放蕩クラブ。
18世紀のころは政治も経済も不安定な時代で、貴族たちの低落ぶりが顕著な時代でもあったとか。とにかくお金を湯水のように使っては、放蕩な生活を繰り返していたようです。
貴族たちの横暴な態度に、庶民は頭を悩ませていたようで、裁判所に人々が押し寄せることもあったそう。しかし貴族なので、どんな犯罪めいたことを犯しても、軽い罰金刑だけですんだことが、その時代の身分制度を如実にあらわしています。
そんなクラブの会員である大貴族たちが大臣や果ては首相、そしてなんと皇太孫であるジョージ三世も含まれていたというから、これまた驚きです。

都市伝説はどこまでが真実でどこまでが嘘なのか分りませんが、明らかに話の出所はあるようです。あながち作り話ともいえないのが恐ろしいですね。
じゃあ、もしかしたらあの「トイレの花子さん」も実在していたとか……怖っ(^_^;

※同著者の決定版 切り裂きジャック (ちくま文庫)もその当時の世相が詳しく書かれていて、とても参考になります。

※投稿 2005年08月03日