ヴィクトリア朝ロンドンの下層社会のお針子

ヴィクトリア朝ロンドンの下層社会(絶版)

19世紀なかばのロンドンをレポートした形式で書かれているため、当時のいわゆる貧民たちの生活がリアルかつ詳しく描写されています。
残念なのが、原書の半分しか訳されていないことを差し引いても、ヴィクトリアンの下層社会の生活を知るには、おすすめの専門書。

そのなかでもっとも印象的だった『お針子』の項目。
働いても働いても生活が楽になるどころか、年々、同業者が増えてきて、単価を下げるために出来高賃金が低くなってしまうのが悲惨。
お針子だけでは食べることができなくなった女性たちは、仕方なく売春に走って、当座の生活費を稼ぐのです。長時間労働で目が悪くなり、身体も痛め、お針子ができなくなったら救貧院の世話になるしかないのも、救いようがない。

あるお針子なんて、夏は朝5時ごろから起きて服を縫い続け、一度、パン一枚とコーヒーの食事、暗くなって蝋燭を灯して深夜も縫い続けるのですが、ひどいときは10分から15分程度の睡眠しかとれない。
そうでもしないと、日々、食べていけるだけの賃金が稼げないからです。ひどいのは、蝋燭はもちろん、縫い糸やふち飾りは実費という点。納期に間に合わなかったら、受け取ってもらえずただ働きになってしまうことも。
安物既製服って、だから安価なのかと納得できるお針子の境遇です。これがオーダーメイドの店だったら、生きていくのにぎりぎり、あるいは足りないような賃金じゃないそうです。お金持ちが顧客だけあるな。

自由な過当競争で年々、単価が下がっていく点や、人件費を驚くほど安くすませる点は、まるで現代の中国製既製服。現代の社会にも通じるな、と思いました。

ほかにはロンドンのドッグや、貧民学校、ユダヤ行商人、バラッド(流行歌の楽譜や死刑囚の読み物)売り、ごみ回収業者、煙突掃除小僧、横断歩道掃除夫、売春婦がレポートされていました。どれも悲惨です。

そういえば、お金持ちの幼い男の子を浚って、煙突掃除小僧に仕立てあげるくだりは怖かったな。まさしく人身売買。(これも現代の中国に通づるものが・汗)
だから当時はお嬢さまだけでなく坊ちゃまにもつねに付き添いがいたんだな、と納得。単独で外出するのがどれだけ危険だったのかを、物語るエピソードでした。

↓完訳版 上下巻

ヴィクトリア時代 ロンドン路地裏の生活誌〈上〉

投稿日2010年02月13日