ダンディズム―栄光と悲惨


ダンディズム―栄光と悲惨 (中公文庫)

ブランメルの生涯。まさしくダンディでした。
一にも二にも、彼が誇りにしていたのは体裁。といっても世俗的なものではなく、あくまでも彼自身が作り出した人工的な香りのする世界。
野生的な香りがしてはいけないから、感情を表に表さず、いついかなる事態でも冷静に言葉を返すのが、真のダンディ。
ダンディって不自然さが命だったんですね。
異様にも見えるほど細いズボンを履くのも不自然さが理由。もちろん、肥満は厳禁。一人では履けないもんだから召使を使って、毎日四苦八苦して脚を入れていたとか。ひどいときは椅子に座ることもできなかったって、どれだけぴったりしてたんだろう(苦笑)。ネクタイを結ぶのだって、一ダースも無駄にして満足いくまでやり直し。
そんなこんなで、毎日二時間かけておしゃれしていたというんだから、当時のダンディって貴婦人なみの身づくろいです。

あと必須なのが、毒舌に近いジョーク。ブランメルはかのジョージ四世王(当時は皇太子)まで、舌鋒をふるったというのですからおどろきです。しかも彼は平民。それでも流行を作り出すほどのセンスの持ち主だったから、仲たがいするまでは皇太子のほうが下だったとか。
それだけの逸話の持ち主なのに、人生の後半は借金に追われて、ついには債務者監獄に入れられるのです。所詮、ダンディもお金がなければ、こっけいな道化みたいなもの……。

ブランメルがもし登場しなかったら、紳士服が黒と白になることもなくて、スーツもすぐには洗練されたものにはならなかったでしょう。それだけ彼のファッションリーダーぶりは、当時としては画期的だったのです。

投稿日2010年01月09日