英国メイド マーガレットの回想


英国メイド マーガレットの回想

以前 図説 英国メイドの日常で触れたマーガレット・パウエルの回顧録。あの型破りなマーガレットさんのメイド時代のあれやこれやが面白かったです。

1920年代がメインということもあって、19世紀のような型にはまった使用人像とはちがいます。何せ彼女は奨学金をもらって中学校へ入学できるチャンスがあったのに、実家が貧乏だったため、仕方なくメイドに……というのが根底にあるため、使用人というものをどこか冷めた目で見ているのが特徴。
だからお仕着せであるメイド用のキャップ(帽子)をかぶるのも嫌ったし、主が気に入らなければ経験を積んで、さっさと転職。そして自信たっぷりだから、年齢もサバを読んでメイドからコックへ昇格した転職もすごい。すごいはったりだなって(笑

そんなマーガレットだから、数々あるエピソードも勢いがあって楽しいです。いや、本人は短調で肉体労働のメイドとコックの仕事にうんざりしていたけど。

あと、階上と階下の階級差に納得できない、といったエピソードもたくさんありました。
一番ショックを受けたのが、新聞を奥さまに直接手渡したら、叱られたこと。必ず銀盆に置いて渡すように。少し昔の回想録だったら「当り前」として受け止めていたような記憶がありますが、現代的なマーガレットにとっては耐えられなかったという。それだけ使用人が「同等とみなされない」ことに違和感があったんでしょうね。

彼女がほかの使用人や労働者と異なるのは、本を読むことが大好きだということ。ある令夫人の奥さまに「図書室の本を借りてもいいか」と尋ねたら、「コックが本なんて読むの?」と驚かれたというのが、時代だな、と思います。
当時は全般的に労働者階級の人は、娯楽小説や大衆紙ならともかく、ディケンズ等の文学は読まないのが普通だとか。マーガレットがただのメイドでおさまらないのも納得なエピソードです。

そして使用人稼業から抜け出すために、平凡な夫と結婚するのですが、あるきっかけで再びコックとして働くことに。主婦業は貧しくて退屈だったけど、あらためてコックとして働くことの楽しさと素晴らしさに目覚めます。
ただ、そのころから後のエピソードが少ししかないので、どんな主人に仕えて晩餐料理を作ったのかはわかりません。そのころの話がもう少しあればよかったな、とも思いました。

いわゆる古きよき時代の終わりのころの話でもあるので、没落した貴婦人や老嬢たちの姿がどことなく淋しげなのも印象的でした。

だいたい吝嗇で傲慢なタイプの主人は、いわゆる中流階級に多くて、貴族等のホンモノの上流階級の主人たちは、使用人に大らかなのが興味深い。あと、本当のお金持ちの家も、待遇をよくして使用人を長く居着かせるエピソードもあったり。
ということは、待遇の悪い屋敷は、お金はあっても上流の体面を保つのにギリギリの生活だったんでしょうね。で、圧倒的に多かったのは、ギリギリのほうだったという。マーガレットの奉公先は上記のふたつ以外、そればかり。

文書は読みやすくて、内容もまったく堅苦しくないので、メイド等に興味がなくても楽しく読めます。

投稿日2012年01月24日