八月の砲声 第一次世界大戦はなぜ始まったのか?


八月の砲声 上 (ちくま学芸文庫)

気軽に読める内容ではありませんが、中味は非常に濃くてストイックなジャーナリズム視点から書かれた、第一次世界大戦の様子は白眉です。近代史好きなら、お勧め。

第一次世界大戦勃発前と、マルヌ会戦までが書かれてます。非常に細かい当時の日記や報告書から綴られる、戦争はなんだか滑稽。……たしかに戦争は悲惨だけども、戦争に突入する事情が人間くさいというか、誤解が誤解を呼んでしまうのがずっこける(苦笑)

とくに戦争に至った大きな原因は、ヨーロッパ同士が連携した協定の存在。それを推し進めたのが、ヴィクトリア女王のあとに英国王になったエドワード七世。王が無くなったわずか4年後に戦争が始まってしまうのだから、もし存命だったらどうなっていたのでしょうね。またちがった展開になっていたかも。

そして当時のドイツ帝国が非常な野心家だったのも、大きな要因。シュリーフェン計画なるものを実行するために、強大な兵力を使って東西へ進行するも、泥沼化することに。
計画では冬のあいだに決着が着くことになっていたけど、実際はその後、4年も戦争が続いてしまうのです。
ドイツ兵はゲリラ兵を恐れるあまり、村人を虐殺したため、ヨーロッパ中を敵に回したのも、戦争が悲惨さを極めた要因でした。

19世紀と20世紀の戦争の大きな違いは、兵器が近代化され、殺傷能力が桁違いに大きくなっていたこと。しかし軍人たちというか、人々の意識はまだ前世紀の感覚だったために、古風な突撃戦法で大勢の死が。あと、兵士だけでなく、町が戦場になったときは大勢の一般市民が犠牲になりました。

そんな古風と近代が入り混じった戦争で活躍した、将校たちの姿もたくさん描かれています。
勇猛果敢だけではだめで、将軍に必要なのは情報分析力と、悲観と、それに負けない心の強さや肉体のタフさなのだとわかります。楽観的なのはいいようで、無謀な作戦を展開してしまうのであまり向いてないようです。だからといって悲観だけで終わるのもだめで、最悪を想定して、どうするかという決断力が大きな勝敗の分かれ目のようです。

内容がとても濃いので、第一次世界大戦だけでなく、歴史的人間ドラマに興味があればとてもお勧めです。

投稿日2013年12月08日