18世紀当時、上流階級の貴族や地主は鹿狩りが娯楽でした。その肉を晩餐で振る舞うのがステイタスシンボルであり、同時に高価で貴重な獣肉だったのです。
その鹿を領内の森で飼育するのが、森番(ゲームキーパー)の仕事の始まりであり、ゲームとは狩猟の獣鳥を意味しました。
獣が鹿とウサギ、鳥が雷鳥、雉、鴨、ウズラ、雁、ヤマシギ等です。それらを飼育、保護し、ときに密猟者から守るのが、森番の役目です。
19世紀に入ると鹿は数を減らし、鳥をシューティングする娯楽が上流階級に広まります。その大量の鳥を、森番は飼育し、狩猟が始まるとそれらを猟場に放しました。その数、多いときは一千羽を超えたといいます。
シューティングとは鳥を鉄砲で撃つ狩猟です。紳士が鳥を撃つあいだ、女性たちは屋外のランチで男性たちと合流します。それは盛大なもので、屋敷の使用人たちが総出で接客をします。
ハンティングは害獣である狐を狩る遊びです。紳士たちは馬に乗って、自由に野山を駆け回りました。ちなみに狐狩りは銃を使わず、猟犬を使って巣穴に戻れなくなった狐を噛み殺す娯楽です。
当時のイギリスでは、許可された者以外の狩猟は禁じられていたため、村人が食べるために森で獣を捕らえるだけで、犯罪でした。
鹿を始め、ウサギもけっこうな収入になったらしく、犯罪だと知っていても密猟をする者は後を絶ちません。貧しい村人たちは密猟をする者を黙認し、同情したほど生活が苦しかったといえます。
森番は小屋に住み、数人で森の管理をしました。使用人仕事のなかでも人気が高かったのですが、実際はほぼ休日がなく、密猟者との命がけの戦いがある過酷な職業でした。
それでも森や獣を愛する者にとっては、天職だったといいます。
チャタレイ夫人の恋人に登場する、森番のメラーズは、一人で森の小屋に住み、雉や鶏を育てます。ときには密猟者を追い払いました。そんな簡素な使用人生活を、小説ではたっぷり描写されています。
そして孤独なメラーズが、チャタレイ夫人と出会い、恋に落ちるのですが、1920年代当時はまだ階級差の恋愛は許されず、葛藤するふたりの姿が描かれています。
発禁になった当時は猥褻な小説として知られましたが、中味は女性の自立がテーマであり、性愛=肉体の解放を意味しているのでしょう。ヴィクトリア朝時代は、それだけ女性の恋と性が抑圧されていたともいえます。
チャタレイ夫人の恋人【分冊版】 – 川崎三枝子,D・H・ロレンス | マンガ図書館Z – 無料で漫画が全巻読み放題!
↑無料で漫画版を読めます。原作を簡潔にした内容ですが、ストーリーは最後まで描かれていました。
原作は心理描写や情景描写が非常に多く、物語としてはそう複雑ではありません。